1.法定相続人がいない場合

法定相続人がいないため相続人不存在となるケースは、亡くなった時点で次の全てにあてはまる場合です。
  1. 被相続人の配偶者・子(代襲相続人を含む)がいない場合
  2. 両親や祖父母はすでに死亡している場合
  3. 兄弟姉妹(代襲相続人を含む)がいない場合

2.相続人不存在の場合の相続財産はどこへ

① 被相続人に法定相続人がいない場合、遺言書がなければ相続財産は宙に浮いてしまいます。そこで、家庭裁判所は利害関係人や検察官の請求によって、被相続人の財産を管理したり負債の清算を行う「相続財産管理人」を選任します。
② 相続財産管理人が選任されたら、まず相続人捜索の公告を行います。
それでも相続人が不存在の場合は、家庭裁判所が相当と認めるときは、被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって、これらの者に清算後に残った相続財産の全部又は一部を与えることができます。特別の縁故というのは、たとえば叔父、叔母、内縁の妻などがこれにあたります。
③ そして、特別縁故者に対する財産分与がされなかった場合、相続財産は国庫に帰属することになります。

<遺言のすすめ>

法定相続人がいない場合や誰か特定の人に財産を遺したいとのことであれば、遺言書を作成して準備されることをお勧め致します。

3.特別縁故者と不動産の共有者の優先順位

民法255条には「共有者の一人がその持分を放棄したとき又は死亡して相続人がいないときは、その持分は他の共有者に帰属する」と規定されています。
それでは、相続人不存在の場合の特別縁故者への財産の帰属と、不動産の共有者への帰属のどちらが優先されるのかというと、最高裁の判断では、特別縁故者への財産分与の方が民法255条の規定に優先するということになりました(最高裁判所平成元年11月24日判決)。
したがって、①まずは相続債権者や受遺者に対する清算手続を行い、その後②特別縁故者に対する財産分与を検討し、特別縁故者に該当する者がいない場合に③民法255条による共有者への帰属、このような順番となるということになります。

4.相続税の申告について

特別縁故者に対する相続財産の分与により相続財産が与えられた場合には、その財産は被相続人から遺贈により取得したものとみなして相続税が課税されることになります。 また、特別縁故者が財産分与を受けた場合の相続税申告において、特に注意すべき点は以下の通りです。
  1. 申告期限
    特別縁故者が財産分与を受けた場合の相続税の申告期限は、当該財産分与の審判確定の日の翌日から10か月以内となります。
  2. 基礎控除
    法定相続人がいない場合での不存在となった場合は、法定相続人はゼロとなりますので、3,000万円のみとなります。
    なお、相続放棄により相続人が不存在となった場合は、放棄がなかったものとして法定相続人を計算し、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります。
  3. 相続税額の加算
    相続税額については、その財産分与を受けた特別縁故者で被相続人の一親等の血族以外の者につきましては、2割加算の対象となります。
  4. 債務控除・葬儀費用
    特別縁故者は相続人ではないため、原則として債務控除の規定の適用はありません。

5.その他注意点

(ア) 相続人が行方不明の場合
相続人が行方不明の場合にはすぐに相続人不存在とはならず、まずは相続人の確定にために行方不明の相続人を捜します。
そして捜しても見つからない場合は、不在者財産管理人を立てるか、失踪宣告を申し立てて法律上死亡したとみなす手続きを取る必要があります。

(イ) 相続放棄などによる場合
このケースは、法定相続人が全員相続放棄をした場合です。
例えば、被相続人の遺産が借入金などの債務だけしかない場合には、その債務の返済を逃れるために相続人である子は相続を放棄します。
したがって、法定相続順位3番目の兄弟姉妹である法定相続人の全員が相続放棄するとなると、被相続人の遺産を相続する人がいなくなり、相続人不存在となります。
また、相続欠格、相続廃除によって相続人が相続権を失った結果、被相続人の遺産を相続する人がいなくなった場合も相続人不存在となります。

本ページに掲載した画像は情報サイト相続.co.jp様より転載許可を得て掲載しています。