今回は、2020年(令和2年)4月1日以降の相続より適用となる配偶者の居住権を保護するための制度の創設についてご説明します。
具体的には①配偶者居住権と②配偶者短期居住権の創設です。
どちらも、根本的な考え方は、相続人である配偶者がそれまで居住していた建物に引き続き住み続けることができる権利を守るというものです。

1.配偶者居住権について

配偶者居住権とは、被相続人の所有する財産の建物に、配偶者が相続開始の時に居住していた場合には、建物の所有権を相続しない場合でも、一定の要件を満たした場合には原則として亡くなるまでの終身の間、その建物に居住し続けることができる権利をいいます。
この配偶者居住権は、遺産の分割で取得する方法、遺言で配偶者居住権を遺贈の目的とする方法、家庭裁判所の審判による方法のいずれかの判断で取得できることになりました。
 しかし、被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者は配偶者居住権を取得することが出来ません(新民法1028条①但書)。
 また、配偶者居住権は登記することが可能であり、居住建物の所有者は配偶者に対して配偶者居住権の登記の設定を行うことが出来る義務を負っています(新民法1031条、新不動産登記法3条9号参照)。登記を行うことによって始めて第三者への対抗要件となります。
 居住建物の使用収益は善管注意義務をおっており、所有者の承諾がなければ居住建物の増改築や第三者に使用収益させることは出来ません(新民法1032条③)し、この配偶者居住権は配偶者という立場で認められた特別な権利なので、他人に譲渡することは出来ません(新民法1032条②)。

<図の説明>

2.現行制度について

夫の遺産が、自宅不動産2,000万円と預貯金3,000万円の合わせて5,000万円の場合です。相続人である妻と子が法定相続分に従って2分の1ずつ財産を相続するとします。夫と同居していた妻は、自宅不動産2,000万円を相続することを希望すると、相続する財産5,000万円の2分の1である2,500万円のうち、2,000万円分をこの自宅不動産が占めてしまい、預貯金は500万円しか相続できません。これでは、自宅不動産は相続できているとはいえ、今後の生活費に関して不安を感じてしまいます。

3.制度導入のメリットについて

そこで、今回の改正の内容です。
  先ほどと同じ前提のご家庭の場合ですが、自宅不動産の2,000万円について、配偶者が引き続き住み続けられる権利=「配偶者居住権」と、その自宅不動産の所有権そのもの=「負担付所有権」の2つの財産として認識します。ここでは具体例として、配偶者居住権が1,000万円の評価とします。
  配偶者は、今後も自宅に住み続けることが望みであり、自宅不動産に関して所有権を相続する必要は無いので、配偶者居住権1,000万円を相続したうえで、法定相続分に従って考えた場合には、残り1,500万円の預貯金を相続することが出来ます。   また、子は妻(母)が住み続ける権利のついた自宅不動産を相続することになります。このときの評価は、自宅不動産の評価額2,000万円から、配偶者居住権の評価額1,000万円を控除した評価額となっていますので、差引1,000万円。そして残りは預貯金を相続することとなります。
  このように、この制度が出来たことによって、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続ける権利を、低い評価額によって相続することが出来、そのことによって相続後の生活費等のための預貯金を多く相続することが出来るようになりました。


2.配偶者短期居住権

配偶者が被相続人の遺産である建物に被相続人と同居していたとしても、相続が開始した場合には、その建物は相続人間での共有財産となるため、他の相続人の相続分に相当するだけの家賃を支払わなければ居住を続けられないとも考えられます。そうすると配偶者を保護することは出来なくなってしまいますし、被相続人が配偶者にこれまで無償で建物を使用させていた意思が反映されないことになります。そこで「配偶者短期居住権」が創設されて、一定期間は配偶者が無償で居住建物を使用できる権利が認められることになりました(新民法1037条①参照)。
 ここで、一定期間とは遺産分割が確定した日若しくは相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日(新民法1037条①一)、上記以外の場合では、配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日(新民法1037条①二)をいいます。




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